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e9 インド エローラ2 カイラーサナータ寺院 闇の中で蠢く神々

はじめての方は「e1 タイ1 スコータイ マハタート寺 ぶよぶよとした世界」からどうぞ

「e8 インド エローラ1 カイラーサナータ寺院の女神」のつづき

eloraves.jpg

 黒く巨大な建造物と、

そこに蠢く神々の彫像、

その一切が、

継ぎ目のない一つの岩から

削り出されたものである。


 それは巨大な曼荼羅であり、

その存在そのものが重要な教えを暗示していた。

ellora5.jpg

 寺院の中は湿っていた。

 彫刻はすばらしく、

湿った岩の中から、

躍動する神々の姿が

湧き出してきたかのようだ。


 抱き合った男女の神々が、

薄闇の中で激しく、

官能的に踊っていた。

eloraves.jpg

 なめらかな石像は、

目を離すと動き出しそうだった。

 動いているところを見たかったが、

肉眼が認識する視界では、神々は静止し続けていた。

eloraves.jpg

 床に座って、目を閉じてみる。

「におい」がする。

 懐かしい「におい」。

 これは、コウモリの糞尿の「におい」だ。

 私は、この臭いがたちこめる洞窟の中で、

2時間ほど、瞑想したことがあった。



 嗅覚は、人間の感覚器官の中で

最も原始的なものの一つである。

視覚や聴覚器官のない単細胞生物でさえ

嗅覚は備えている。


 嗅覚は時として、

驚くほど鮮明に記憶を引きずり出す。


『維摩経』に、

言葉ではなく「におい」によって

説法する香積如来の話が出てくるが

ありえない話ではないと思う。

ellora5.jpg

 コウモリの住む洞窟の中は真っ暗だった。

 仏像の前には灯明が献じられていたが、

少し離れると闇だった。


 コウモリの糞が、

足の裏に

ざらざらとした感覚を与えた。


 闇の向こうがどうなっているのか、わからなかった。

 闇は、すぐそこで終わっているのかもしれないし、

どこまでも無限に続いているのかもしれないのだ。


 闇に向かって、私は座った。


 闇が動いている。


 暗闇の中にいる人間は、

実際には存在しない者の

気配を感じるものである。

eloraves.jpg

 足の上を何かが駆け抜けていった。

ねずみにしては大きく、猫にしては小さかった。


 姿勢を定めて、

眼球に意識を注ぐ。


 しとしとと、水滴が落ちる音。


 蠢く闇。


 におい。



 外的な現象のすべては、

心が生み出した幻影である。



 しとしとと、水滴が落ちる音。



 蠢く闇。



 においがなくなったとき、

身体の感覚がなくなっていた。


 暗闇と一つに溶け合ったとき、

鮮やかな光明の種子が、

暗黒の中で動きだした。


eloraves.jpg

「e10 インド バックウォーター クイロン~アレッピー 船の旅」につづく

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